次世代ライフサイエンス技術開発Pの共同研究成果が英国科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました!

国立医薬品食品衛生研究所 薬品部 佐藤陽治部長(KISTEC非常勤研究員を兼務)、再生・細胞医療製品部 安田智部長(KISTEC非常勤研究員を兼務)、黒田拓也室長(KISTEC非常勤研究員を兼務)、KISTEC次世代ライフサイエンス技術開発プロジェクト 河合純常勤研究員(当時。現、KISTEC非常勤研究員) (理化学研究所生命医科学研究センター生命医科学大容量データ技術研究チーム客員主管研究員を兼務)、国立成育医療研究センター 再生医療センター 阿久津英憲センター長らの研究グループが執筆した論文が、Scientific Reports誌に掲載されました。

掲載誌情報

雑 誌 名:Scientific Reports
DOI番号:10.1038/s41598-023-51082-4
論 文 名:ROR2 expression predicts human induced pluripotent stem cell differentiation into neural stem/progenitor
     cells and GABAergic neurons
著 者:Takuya Kuroda1,2, Satoshi Yasuda1,2,3, Satoko Matsuyama1,4, Takumi Miura1,2,5, Rumi Sawada1, Akifumi
     Matsuyama4, Yumiko Yamamoto6, Masaki Suimye Morioka6, Hideya Kawaji6,7, Takeya Kasukawa6,
     Masayoshi Itoh6, Hidenori Akutsu5, Jun Kawai2,6, and Yoji Sato1,2,3,8,9*

1. 国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部
2. 地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 次世代ライフサイエンス技術開発 プロジェクト
3. 名古屋市立大学 大学院薬学研究科 医薬品質保証学
4. 地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター
5. 国立成育医療研究センター研究所 再生医療センター
6. 国立研究開発法人 理化学研究所 生命医科学研究センター
7. 公益財団法人 東京都医学総合研究所 ゲノム医学研究センター
8. 国立医薬品食品衛生研究所 薬品部
9. 大阪大学大学院 薬学研究科
*責任著者

研究成果の概要】
神経前駆細胞へ分化しやすいiPS細胞株を予測できるマーカー遺伝子としてROR2を同定
 iPS細胞は、さまざまな細胞に分化する能力(多分化能)と無限に増殖する能力(自己複製能)を併せ持つことから、再生医療、細胞治療、疾患モデルの構築、薬剤スクリーニングの原料として非常に有用な細胞として期待されています。一方で、iPS細胞は「あらゆる種類の体細胞に分化できる」と言われつつも、実はiPS細胞の株によって分化しやすい体細胞の種類が異なっており、「神経細胞分化向きの株」「心筋細胞分化向きの株」というように、分化のしやすさにばらつきがあることがわかっています。そのため、複数のiPS細胞株の中から目的とする細胞に高効率に分化する細胞株を特定する方法の開発が望まれています。
 そこで本研究グループでは、様々な成熟神経細胞の元となる神経前駆細胞への分化に最適なiPS細胞株を選択するためのマーカー遺伝子を同定することを目的に研究を行いました。10株のヒトiPS細胞株を用いて神経前駆細胞分化の傾向と未分化状態における遺伝子発現との間で相関解析(スピアマンの順位相関)を行い、神経前駆細胞分化と有意に相関する遺伝子ROR2を同定しました。さらに、このROR2をノックダウンすると、神経前駆細胞への分化が促進すること、また、成熟神経細胞の一種であるGABA作動性ニューロンへの分化が促進することを見出しました。
 これらの結果から、ROR2の発現が低いiPS細胞株を選択することにより、神経前駆細胞やGABA作動性ニューロンに効率的かつ再現性高く分化するiPS細胞株を得ることが期待できます。

本研究の概念図
本研究の概念図

【本研究の意義と展望】
再生医療の実現化に向けて大きく貢献
 再生医療等製品を製造する上で、ROR2を利用した神経前駆細胞への分化しやすいiPS細胞株の選択は(1)最終製品への目的外細胞混入リスクの低減(2)最終製品へ残存未分化細胞混入リスクの低減(3)最終製品の収率の改善(4)製造工程の期間短縮などに貢献することが期待されます。また、これまでに、本研究で用いたアプローチを用いて三胚葉分化マーカーSALL3、心筋細胞分化マーカーCXCL4を同定しており、本分化予測マーカー同定法はその他の目的細胞においても応用可能だと考えられ、再生医療の実現化に向けて大きく貢献するものと期待されます。

【資金情報】
本研究は、以下の事業・研究領域・研究課題の支援を受けて行われました。
・神奈川県 先進異分野融合プロジェクト研究立案・推進事業 研究開発課題名:細胞の特性理解と細胞医薬の品質評価に資する知見の創出
・国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実用化研究事業
(研究開発課題名:「再生医療に資する細胞品質特性指標の探索法の開発」)
・国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 医薬品等規制調和・評価研究事業
(研究開発課題名:「細胞加工製品の原料としての細胞及び最終製品中の加工細胞の品質評価に関する研究」)


【お問い合わせ】
研究内容に関するお問い合わせ
国立医薬品食品衛生研究所 薬品部 部長 佐藤陽治
TEL: 044-270-6600 (内線 1200) / FAX: 044-270-6506
E-mail: yoji*nihs.go.jp(*を@に変えてください)

次世代ライフサイエンス技術開発プロジェクトに関するお問い合わせ
地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合 研究開発部 殿町評価事業課
E-mail: rep-kenkyu*kistec.jp(*を@に変えてください)