走査型X線光電子分光分析装置(μ‐XPS ・ μ-ESCA)
極表面に、どのような元素が存在するか分析することができます。
試料表面の極薄い層(数nm)の元素分析(水素、ヘリウム以外)、半定量分析(検出限界~0.1at%程度)および化学結合状態分析に用いられる機器です。
金属や半導体、酸化物、セラミックス、有機物などの絶縁物試料等、あらゆる固体が対象です。
装置
走査型X線光電子分光分析装置(μ‐XPS ・ μ-ESCA)
特徴
・ビーム径9µm~200μmでの微小部分析
・試料最表面の元素分析、化学結合状態分析
メーカー
アルバック・ファイ社
形式
Quantera SXM
仕様
X線源 | Al KαモノクロX線 |
X線ビーム径 | 分析可能最小ビーム径:9µm |
試料サイズ | W70×D70×H18mm 以下 |
その他 | Arイオン銃、中和銃 |
用途
・目視、顕微鏡では確認できない表面の汚染、吸着、付着物分析
・表面改質評価
・金属薄膜の組成、化学結合状態の評価
・物質表面のしみ、変色分析
・電子材料の故障解析
原理
試料表面にX線を照射するとX線に励起された原子から電子(光電子)が放出される。
照射するX線のエネルギーが一定なので、光電子の運動エネルギーを測定すれば電子の結合エネルギーが求められる。
Ekin =hv-Eb-Φ
Ekin | 放出された光電子の運動エネルギー |
hv | 入射したX線のエネルギー |
Eb | 放出された光電子の試料中での結合エネルギー |
Φ | 測定装置の仕事関数 |
内殻電子の結合エネルギーは原子によって固有の値を有するので、結合エネルギーを測定することによって元素の同定を行うことができる。
また、原子の化学結合状態が異なると結合エネルギーの値は微妙に変化する。変化した値を測定することによって、元素の化学結合状態分析を行うことができる。
光電子の運動エネルギーは小さく、深いところで発生した光電子は内部で吸収され外へ脱出することができないため、浅いところで発生した光電子のみが検出されることとなる。そこで、表面から数nmの深さまでのみの分析を行うことができる。
応用例
・薄膜、多層膜分析
・物質表面の変色、汚染、付着分析
・電子材料の不具合分析
・目視、顕微鏡では確認できない汚染物分析
・表面処理、ぬれ性など表面改質分析
・腐食、接合などのトラブル解析
・光触媒の劣化解析
分析事例(クリックで各分析事例に移動します)
分析事例-1 Auめっき上の極薄いしみの分析
XPSワイドスキャン分析により、極表面の薄いシミに、どのような元素が存在するかわかります。
観察例
・極薄いシミの分析ができます
使用機器
・X線光電子分光分析装置(XPS)
・アルバック・ファイ社 Quantera SXM
分析例
・金(Au)メッキ表面の極薄いシミの分析
・XPSワイドスキャンによる元素分析および簡易定量
分析事例-2 高分子材料の表面処理の分析
観察例
・ポリエチレン・ポリプロピレン(PE・PP)不織布の表面について
・親水性コロナ処理の評価事例
使用機器
・X線光電子分光分析装置(XPS)
・アルバック・ファイ社 Quantera SXM
分析例
・PE・PP不織布の親水性コロナ処理表面の分析
・XPSワイドスキャンによる元素分析および簡易定量
コロナ処理あり試料は処理なし試料と比較して酸素が多く存在していることが分かりました。
XPSナロースキャン分析により、高分子材料表面の炭素が、どのような化学結合状態であるかわかります。
・XPSナロースキャンによる炭素スペクトル化学状態分析
コロナ処理あり試料と処理なし試料を比較し、処理有り試料には親水性を有する極性官能基が導入されていることがわかりました。
データ処理が必要な場合
コロナ処理ありの炭素スペクトルピーク分離
ピーク分離結果
Energy (eV) | Chemical state | Area | %Area |
284.6 | C-C(H) | 17934 | 58.4 |
285.8 | C-OH | 7910 | 25.8 |
287.3 | C=O | 2884 | 9.4 |
288.9 | O=C-OH | 1990 | 6.5 |
炭素スペクトルのピーク分離処理により、各極性官能基の存在比率の評価ができます。