【プレスリリース】インスリン抵抗性に関連するヒト腸内細菌の網羅的解析
― 腸内細菌を利用した糖尿病の治療介入につながる成果 ―
概要
理化学研究所(理研)生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司チームリーダー(神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)腸内細菌叢プロジェクトプロジェクトリーダー(研究当時))、窪田哲也上級研究員(研究当時、医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)国立健康・栄養研究所臨床栄養研究部長(研究当時)、KISTEC 腸内細菌叢プロジェクトサブリーダー(研究当時))、竹内直志特別研究員(研究当時)、理研統合生命医科学研究センター(研究当時)の小安重夫センター長(研究当時、現理研生命医科学研究センター免疫細胞システム研究チームチームリーダー)、東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科の門脇孝教授(研究当時)、同病態栄養治療センター病態栄養治療部の窪田直人准教授らの共同研究グループは、2 型糖尿病[1]の基盤であるインスリンの働きが悪くなる「インスリン抵抗性[2]」に関連する特徴的な腸内細菌および糞便代謝物[3]を特定しました。
本研究成果は、2 型糖尿病の発症予測や未病(前糖尿病)[4]段階での治療介入などに貢献するものと期待されます。
今回、共同研究グループは、日本人306 人の腸内細菌および糞便代謝物を網羅的に調べる統合オミクス解析[5]を実施し、糞便中の果糖、ガラクトースなどの単糖類[6]がインスリン抵抗性に関連することを発見しました。また、腸内細菌のうちAlistipes 属はインスリン抵抗性、単糖類ともに負の相関を示したことから、Alistipes 属にインスリン抵抗性の改善効果があると予測しました。実際に、Alistipes indistinctus をインスリン抵抗性モデルマウスに投与した結果、この細菌株にインスリン抵抗性の改善効果および腸管内単糖類の減少効果があることを突き止めました。
本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(8 月30 日付:日本時間8 月31日)に掲載されます。
補足説明
[1] 2 型糖尿病
糖尿病は、大きく1 型糖尿病、2 型糖尿病、その他の特定の機序や疾患による糖尿病などに分類される。2 型糖尿病は、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性(インスリンの働きが悪くなること)が合わさり、血糖値が上昇し、発症する。日本の糖尿病患者数は約1,150 万人で、そのうち約90%は2 型糖尿病であると考えられている。
[2] インスリン抵抗性、インスリン感受性
体内で産生されるインスリンは血糖を低下させる唯一のホルモンであるが、インスリンが血糖低下作用を発揮する状態をインスリン感受性と呼ぶ。一方、さまざまな原因でインスリンによる血糖低下作用が減弱することをインスリン抵抗性と呼ぶ。2 型糖尿病やメタボリック症候群の基礎になる病態であると考えられている。
[3] 代謝物
腸内細菌が産生する、脂肪酸、アミノ酸、糖、ビタミンなどの低分子化合物。多くはヒト体内では合成が不可能であり、食事由来成分から腸内細菌独自の機能で合成される。腸内細菌の種類によって合成される代謝物は異なる。
[4] 未病(前糖尿病)
未病とは、発病には至らないものの、病的状態に近づきつつある状態。2 型糖尿病の場合、インスリン抵抗性を呈するものの、高血糖には至らない状態(前糖尿病)などを指す。
[5] 統合オミクス解析
さまざまな網羅的解析手法を組み合わせることで生体試料を多角的に調べる手法。遺伝子を調べるゲノミクス、転写物を調べるトランスクリプトミクス、タンパク質を調べるプロテオミクス、そして代謝物を調べるメタボロミクスなどを実施し、それぞれの解析結果を基に関連性などを調べる。
[6] 単糖類
糖質の最小単位である糖を指す。主にブドウ糖、果糖、ガラクトースなどを含む。単糖類はヒト体内に吸収可能なため、ヒトの代謝生理に影響を与えると考えられている。
特記事項
本研究は、理研、東京大学、NIBIOHN、KISTEC との共同研究であると同時に、2013 年理研統合生命医科学研究センター(現生命医科学研究センター)発足時に開始したセンタープロジェクトの一つであり、センター内外から多くの研究者が参加して実施されました。
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