【プレスリリース】ひずみが測れる柔らかい光センサーシートの開発
― 生体の感覚系を模倣した亀裂の開閉動作が鍵 ―
発表のポイント
概要
東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻/電気系工学専攻の松井裕章准教授、神奈川県立産業技術総合研究所機械・材料技術部の百瀬晶グループリーダー、宇都宮大学大学院地域創生科学研究科工農総合科学専攻の依田秀彦准教授と株式会社科学技術研究所の藤田明希科学技術部長らの研究グループは、自然界に存在する蜘蛛の脚関節の近くにある細隙器官(注1)に似た亀裂の開閉動作を応用した新しい光センサーシートを開発しました。従来の光学的な手法(注2)は複雑な構造体への適用やリアルタイム計測に課題がありました。本研究は、酸化物半導体ナノ粒子(注3)をコーティングした薄膜表面に生じる微小な亀裂の開閉動作を表面プラズモン共鳴(注4)に応用させた光センシング技術を実現しました。バイオミメティクス(注5)技術を活かした光センサーシートの開発は、人の運動認知やソフトマテリアル(注6)に対するひずみ計測技術として期待されます。
用語解説
(注1)蜘蛛の脚関節近傍にある細隙器官
蜘蛛の脚関節近傍には、クレパスのような亀裂(クラック)構造が平行に並んで形成された細隙器官が存在し、蜘蛛の糸に生じる僅かな振動や応力などを検出するための感覚器として機能する。
(注2)従来の光学的手法
応力やひずみ計測に向けた従来の光学的手法は、光弾性法、光モアレ法及び熱弾性法などがある。光弾性法は、ガラスやプラスチックなどの透明な試料の光学異方性の変化を利用し、光モアレ法は等間隔な平行線からなる基準格子の変化を用いる。一方、熱弾性法は、物体が弾性変形する際に生じる温度変化(熱弾性効果)に基づく。
(注3)酸化物半導体ナノ粒子
可視透明性が高く、半導体的な物理的性質を持つ酸化物材料(例えば、ZnO、In2O3およびSnO2)であり、化学的合成によって作られるナノメートルスケール(典型的には、50 nm以下)の大きさを持つ微結晶のことを指す。
(注4)表面プラズモン共鳴
金属に光が入射した場合、金属表面の自由電子がその影響を受けて集団的な運動(プラズマ振動)が起こる。これは電場と磁場が交互に伝搬する電磁波となり、入射光のエネルギーの一部が金属表面に移動することでプラズモン共鳴を起こす。
(注5)バイオミメティクス
生物の機能や構造から着想を得て新しい技術の開発に応用する技術(生体模倣技術)を指す。
(注6)ソフトマテリアル
高分子、ゲルやゴムおよび粘土などの柔らかい(ソフトな)物質の総称で、金属や酸化物のようなハード材料に対する総称。
研究助成
本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:21H0136)」、「基盤研究(B)(課題番号18H01468)」、村田学術振興財団、日本板硝子材料工学助成会、精密測定技術振興財団、旭硝子財団の支援により実施されました。
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