2024年10月31日
化学技術部研究テーマ(令和5年度)
当所の研究職員が技術相談、依頼試験及び委託開発等の中小企業に対する支援を効果的に行うために技術資産の蓄積を目的として、令和5年度に取り組んだ研究テーマをアーカイブとしてご紹介します。
ガラス繊維強化プラスチックの破断面観察
製品が破損した際、割れた箇所の形状観察から破損に至る経緯を推察する破面解析が、破損原因究明のための有力な手法とされている。繊維強化プラスチックはプラスチックにガラスやカーボンなどの繊維を混合した複合材料で、軽量かつ強度や弾性率に優れていることから、構造材料にも用いられるようになっている。一方で、複合材料になるため、破損原因と破断面の形状との相関に係る知見が求められている。本研究では、ガラス繊維強化プラスチックの破壊メカニズムと破断面形状との対応関係を事例として蓄積し、破損原因対策に係る技術支援に役立てることを目的とする。
非線形粘弾性指標を用いたゲル化点近傍の曳糸性評価
ゲルや高粘度ポリマーの曳糸性は、生産効率や製品性能に直結することから企業ではこれを自在にコントロールする技術が求められている。しかし、曳糸現象は大変形を伴った強い非線形粘弾性(NLVE)現象であるために解析が難しく、これまでほとんど粘弾性との関係づけが行われてこなかった。KISTECではこれまで独自にNLVE指標を考案し、化粧品や食品、ゴムなど様々な製品の柔らかさの違いを評価してきた。そこで本研究では、NLVEと曳糸性(糸引き)を関係づけ、さら僅かな試料から簡便に曳糸性を予測する技術の確立を目指す。本成果は、プラスチック製品の生産、性能評価、トラブル解析に至るまで様々な分野で活用することが出来る。
プラスチック材料の引張試験における湿度環境の影響
プラスチック材料はその吸水率によって引張強さ等の力学的特性が変化するため、JIS等の試験規格では恒温恒湿環境(23℃、50%)で試験を行うことが推奨されている。一方で、試験する材料が湿度に影響を受けない場合には湿度制御を行う必要がないと規定されているが、プラスチック材料が湿度環境によってどの程度の影響を受けるのかについての詳細な情報を得るのは容易ではない。本研究では、恒温恒湿槽を使用してプラスチック材料の引張試験を行い、その力学的特性が湿度環境によって受ける影響を調べることを目的とする。予備乾燥を行った引張試験片を準備し、温度、湿度、状態調節時間等の条件が力学的特性に与える影響について詳細な試験データを蓄積する。
高純度銅試薬の主成分分析法に関する基礎検討
産業界では高純度な試薬の需要が増加しており,その純度を精度よく分析することは重要な課題である。しかし,一般に機器分析による定量分析では十分な精度が得られない。また,不純物を定量してその残分を主成分とする差引法によって純度が決定される場合も多いが,この方法では主成分を直接定量していないため,主成分の含有量が厳密には保証されないという問題がある。本研究では,銅を対象として高純度試薬の新たな主成分分析法の開発について基礎検討を行う。
六価クロム標準試料開発に関する基礎的検討3
表面処理鋼板(三価クロメート処理)中の六価クロム標準物質の試作を行うための基礎的検討。表面処理鋼板(三価クロメート処理)を作成し、標準物質として重要な六価クロム濃度の管理方法、安定性を検討する。
食品機能性成分の神経保護作用評価方法の構築
近年、平均寿命の延伸、高齢化に伴い認知症をはじめとする神経疾患の発症が増加している。神経疾患発症後の治療は困難であり、完治を目指すよりも進行抑制や症状緩和が主となるため、神経疾患発症前に防ぐことが重要である。その方法の1つとして日常の食品摂取による神経保護があるが、食品の神経保護作用については動物を用いた脳機能を中心として評価されており費用と時間を要する。そのため簡便な食品の神経保護作用評価方法の構築が望まれている。食品機能性成分の神経保護作用について、試験管レベル~生体レベルまで簡便に評価できる方を構築することで、神経保護作用をもつ新たな食品機能性成分の迅速なスクリーニングが可能となる。
樹脂系材料の劣化に対する化学的総合診断への試み -バイオプラスチックへの適用(2)-
プラスチック部品、塗料など、樹脂系材料の劣化に関する相談は、年間通して数多く寄せられる。適切な評価・診断手法を提案・実施し、原因究明につながる情報を提供することが求められている。一方、単一の分析手法による結果から得られる情報は限られている。このような背景から、本研究では、種々の化学的手法を組合せて、劣化を総合的に評価、診断する手法について検討し、樹脂系材料の劣化にかかわる試験計測技術の充実をはかることを目的とする。本年度は、海洋生分解性を有することから、マイクロプラスチック対策のひとつとして今後利用がすすむと予測される、ポリヒドロキシブチレートヘキサノエートを対象として促進暴露試験を行い、各種分析手法による評価、解析を行う。
貝殻焼成物が気相に放散する静菌活性物質に関する研究
大量に廃棄されているホタテ貝殻の有効利用法を開発すべく、焼成粉の機能性の評価、エビデンスの取得を目指す。
電解オゾン水に関する基礎研究
消毒用途として、水道水を電解してオゾン水を生成するポータブル機器(電解オゾン水生成器)が一般消費者向けに販売されている。しかし、被処理水の水道水水質が、生成するオゾン水にどういった影響を及ぼすかについては明らかではない。本研究では、オゾン水の生成における水質への影響について基礎的な検討を行う。
低濃度イオン成分の評価と溶出手法の確立
製品のトラブル解析や品質確認など様々な試料からのイオン成分の溶出試験に関する相談が増加している。本研究では、低濃度イオン成分の評価手法の確立を目的とし、実験室内に簡易クリーンブースを導入して環境からの汚染の影響を低減し低濃度イオン成分の評価を可能にするとともに、試料に応じた溶出試験手法の確立を行う。
複合構造を持つ半導体光電極の分光感度特性
禁制帯幅の異なる2つの半導体をH2発生光触媒、及びO2発生光触媒として接合させた半導体光電極から、二段階励起型の水分解系の光触媒反応システムを創生し、電気化学特性評価から応答波長依存性を明らかとする。禁制帯幅の異なる半導体がヘテロ接合した構造は、光電変換デバイスにおいて高効率太陽電池を実現しており、光触媒でも(i)効率的な光吸収、(ii)光励起電荷の効率的な分離を可能なことから、光触媒効果を用いた光-化学エネルギー変換が期待される。
酸素濃淡電池腐食に関する研究
酸素濃淡電池腐食(別名 通気差腐食)とは,溶存酸素(DO)の濃度差が存在する水中に金属が浸っている場合,DO濃度が低い部分の金属の腐食が促進される現象である.この種の腐食の代表例は,pH緩衝性の無い中性環境中において鋼に発生するものである.酸素濃淡電池腐食は銅合金には発生しないとされており,その他の金属素材において発生するかどうかは明確には分かっていない部分も多い.そこで水中にDO濃度差を発生させる実験系を組み立て,鋼およびその他の実用金属材料を用いて,酸素濃淡電池腐食が発生するかどうか,また発生する場合の条件について調べる.得られた結果を将来の腐食トラブルに対応する際の情報源として役立てる.
腐食促進試験の定量的な評価方法の検討
塩水噴霧試験などの腐食促進試験の結果は目視により評価されることが多く、評価基準が主観的で、定性的である。より信頼性、再現性の高い評価を行うためには、客観的、定量的な方法、基準が必要となる。腐食の発生による色彩の変化に注目し、非破壊で実施可能な方法を用いた定量的な評価に関する検討を行う。