次世代半導体用エコマテリアルグループ
IoT社会の実現、高速大容量通信などのナノテクノロジーの発展に伴い、電子デバイスの消費電力の低減や、環境負荷の小さい材料の開発が求められています。精密構造解析と電子状態解析に基づく物質設計で、低消費電力不揮発性メモリ材料につながる強磁性強誘電体や、風や振動から電気エネルギーを生む圧電発電のための非鉛圧電体、温めると縮むことにより他の材料の熱膨張を吸収する負熱膨張材料などの開発に取り組んでいます。
期間
- (戦略的研究シーズ育成事業)「革新的巨大負熱膨張物質の創成」2015年4月〜2017年3月
- 「革新的環境調和機能性材料の創出」2017年4月〜2019年3月
- (有望シーズ展開事業)「次世代機能性酸化物材料」プロジェクト 2019年4月〜2023年3月
- (実用化実証事業)「次世代半導体用エコマテリアル」グループ 2023年4月~
次世代機能性酸化物材料プロジェクトの研究成果動画はこちら
実施場所
東京科学大学すずかけ台キャンパス
研究概要
全てのモノがインターネットにつながるIoT社会の実現に向けて、電子デバイスの消費電力の低減や、環境負荷の小さい材料の開発が求められています。例えば、熱膨張という現象は固体・液体・気体に共通する物質の性質ですが、10㎝の鉄の棒は、温度が1℃上がるごとに1.2μm膨張していきます。小型・高密度化が進む現在のLSIの配線は10nmオーダーであり、熱膨張の制御なしには精度を保つことができません。このようなことから他の材料の熱膨張を吸収する「負」熱膨張材料(温度が上昇すると収縮する材料)の研究が近年活発化しています。開発中の負熱膨張材料については、企業との連携により安定な材料の供給ができる体制を整え、産業化への歩みを進めているところです。
本グループでは、1.巨大負熱膨張材料の産業化と、樹脂複合体による熱膨張制御技術の確立と普及、2.強誘電強磁性体を用いた超低消費電力磁気メモリの実現、の2つの目標に向かって研究を展開していきます。
研究内容
1.巨大負熱膨張材料の産業化と、樹脂複合体による熱膨張制御技術の確立と普及
熱膨張は物質共通の性質ですが、構造材料に対して、位置決めのずれ、異種材料接合の剥離、という深刻な問題を起こします。半導体製造や光通信などの精密な位置決めが必要とされる場面では、熱膨張抑制のための高度空調に膨大なエネルギーが浪費されていますし、金属・セラミックス・樹脂などの熱膨張係数の違いは、異種接合界面の剥離や断線といった深刻な障害につながります。この問題は、パワー半導体や3次元集積回路素子(3D IC)といった先端電子デバイスや、熱電変換、燃料電池などのエネルギー・環境技術において、喫緊の課題と認識されており、技術革新には熱膨張制御が不可欠です。
グループリーダーらが開発したBiNi1-xFexO3は-178ppm/Kの巨大な負熱膨張を示し、ビスフェノール型のエポキシ樹脂にわずか18w%分散させることで室温近傍でゼロ熱膨張を実現できました。またポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂に対しても熱膨張抑制効果を持つことを確認しています。他にも多くの企業が興味を示しており、試験的な製造委託の準備を開始していることから、産業化や大型の共同研究へつながることを期待しています。
さらに、温度履歴を解消したBiNi1-xSbxO3や、強誘電転移による超巨大負熱膨張物質Pb1-xBixVO3といった、戦略シーズ事業において開発した材料、さらにその改良版も順次産業化を行っていくこととしています。
2.強誘電強磁性体を用いた超低消費電力磁気メモリの実現
戦略シーズ事業において、強磁性強誘電体BiFe1-xCoxO3薄膜を用いた電場印加磁化反転の観察に成功しました。HDDやMRAMなどの磁気メモリが、コイルに電流を印加して発生した磁場で磁気情報の書き込みを行うのに対し、電場印加で磁化を反転できれば消費電力の劇的な低減が可能です。現状では電場書き込み、磁化読み取りとも、プローブ顕微鏡を用いていますが、デバイス化のためには、電極を用いた電場印加と、ホール素子などのセンサーによる磁気読み取りが必要となります。NANOBICの微細加工装置の利用等により、単一強誘電ドメイン化を行い、磁気メモリデバイスとしての動作を実証していきます。
『ニュース』
住友化学株式会社、東京工業大学、KISTECの3者による共同研究を開始いたしました。