毛髪再生医療実証グループ

毛髪再生医療は、従来の脱毛治療では難しいと考えられている「毛髪の総本数の増加」を可能とする画期的な治療法として世界中で期待されています。本グループでは、髪の毛の元となる「毛包原基」を大量に作製する技術を基盤に、毛髪再生医療の実用化のため、毛包原基の作製に必要な細胞の増殖手法、再生能の高い毛包原基を作製する手法等の開発を進めています。

本プロジェクトは文部科学省地域イノベーション・エコシステム形成プログラム 神奈川発「ヘルスケア・ニューフロンティア」先導プロジェクト の事業化プロジェクトⅡの「再生毛髪の大量調製革新技術の開発」としても研究を進めました。

期間

  • (戦略的研究シーズ育成事業)「毛包原基の大量調製法を用いた毛髪再生」2018年4月~2020年3月
  • (有望シーズ展開事業)「再生毛髪の大量調製革新技術開発」プロジェクト 2020年4月~2023年3月
  • (実用化実証事業)「毛髪再生医療実証」グループ 2024年4月~

実施場所

ライフイノベーションセンター(LIC)神奈川県川崎市川崎区殿町

研究概要

 毛髪はヒトの見た目の印象を大きく左右することから、脱毛症治療への世界的なニーズは非常に大きく、近年、毛を作り出す器官である毛包を構成している細胞そのものを用いて、脱毛症の治療を行う毛髪再生医療に期待が寄せられています。この治療法は、患者本人の髪の毛1本を取り出し、その根本にある毛包組織から毛包幹細胞を採取して例えば100本分に増殖させ移植するというものです(図1)。

 従来の細胞懸濁液を注射器で単に頭部に打ち込むという手法では、毛髪の産生効率が低いという問題がありました。しかし最新の手法では、毛包を構成する2種類の幹細胞を用い、それぞれの細胞凝集塊を作製して接合させた上で、移植するというアプローチがとられています。この細胞凝集塊は「毛包原基」と呼ばれ、胎児期の組織形成プロセスを生体外で模擬したもので、移植後に高効率に毛髪再生を誘導できることが報告されています。ただし、この毛包原基は顕微鏡下で手作業で1つずつ作製する必要があり、ヒト治療に必要な数千個を作り出すのは現実的ではありません。つまり、一度に大量の毛包原基を簡便に調製できる技術が求められています(必要技術2)。さらに、これら2種類の幹細胞を毛髪再生能力を維持した状態で大量に増殖させる技術(必要技術1)、および調製した毛包原基を精密に移植する技術(必要技術3)の開発も実用化に不可欠であります。

 本研究では、工学的な視点から、上記3課題の解決に取り組み、毛髪再生医療の実用化を目指します。

図1 毛髪再生医療の概略
必要技術1細胞の増殖、2移植組織の作製、3精密移植

研究内容

1. 毛包幹細胞の培養

 毛包は、上皮系と間葉系の2種類の幹細胞からなる原基を形成し、形態形成されたのち、誕生後も一定周期でこの現象が繰り返されます。この恒常性は、毛包上皮幹細胞(上皮系)と毛乳頭細胞(間葉系)の2種類の細胞により維持されており、これらは毛髪再生の実現に必要な細胞といえます。

 本グループは、これまでに毛包上皮幹細胞の毛髪再生能を維持しながら、増殖させるために、独自の三次元培養系を開発するとともに、ゲルビーズ培養法や、毛乳頭細胞の電気刺激培養(図2)を用いて細胞の機能維持培養ができることを確認しました。また毛包上皮幹細胞では平面培養で急激に減少する毛髪再生能が本プロジェクトの培養法を用いることで一定程度回復することが確認されています。

図2 毛包幹細胞の電気刺激培養

2. 毛包原基の大量調製

 本グループは、酸素透過性の高いマイクロウェルアレイ培養器内で、上皮系細胞と間葉系細胞の懸濁液を混ぜて1つの凝集体を形成させると、培養初期は2種類の細胞がバラバラの状態で凝集体内に存在するものの、培養3日間のうちにそれぞれの細胞が自発的に分離して毛包原基と同様の凝集体が形成されることを発見しました(図3) 。この技術では、細胞懸濁液を注ぐといった簡便なプロセスで約5000個の毛包原基を調製することが可能であり、形成した毛包原基をマウスに移植することで毛髪が再生することも確認しています(図4)。本グループでは、培養デバイスの材質やウェル構造、培地の組成などを脱毛症患者細胞のために最適化することで、臨床に向けた評価を進めてまいります。

図3 毛包原基の大量調製技術
図4 マウスへの移植後に再生した毛髪

3. 毛包原基の精密移植

 毛包原基を精密な深さへ挿入することが可能な移植針を作製し、これをアレイ化することで、毛包原基を一度に精密かつ大量に移植できるツールを開発します。これにより、毛髪の大量再生の効率を改善することを目指します。

研究員一覧 (氏名 /職制/ 専門分野/ 本務所属機関)

  • 福田 淳二/グループリーダー/生物工学/横浜国立大学
  • 景山 達斗/サブリーダー/ 生物工学
  • Yan Lei /常勤研究員/ 生物工学
  • Seo Jieun /非常勤研究員 /生理学/ 横浜国立大学
  • 大久保  佑亮/非常勤研究員/ 幹細胞工学/ 国立医薬品食品衛生研究所