過去の技術開発可能性評価支援内容
令和3年度
酒造米のタンパク質含有率推定システムの開発
目的
ドローンとマルチスペクトルカメラで測定した水稲(酒米)の活性度(植生指標、NDVI値)と収穫する酒米のタンパク質含有率の関係を調べ、日本酒の高品質化を進めるうえで重要となるタンパク質含有率を推定するモデル式を求める
可能性評価の具体的な実施内容と結果
海老名市内の4ヶ所の圃場で、ドローンとマルチスペクトルカメラを用いて分光マッピング測定を行い、画像データの数値データ処理により、植生指標(NDVI値)マップを作成した。
試験圃場として、本評価の申請元企業が自社栽培する山田錦、雄町、楽風舞の3品種と、契約農家が栽培する山田錦を選択した。撮影に用いたドローンとマルチスペクトルカメラは、一昨年度からの使用実績があるDJI社マビックプロに搭載したパロット社セコイアカメラに加え、飛行性能とスペクトルバンド数に優れたDJI社P4マルチスペクトラル(マルチスペクトルカメラ標準装備のドローン)を新たに用いた。数値データ処理は、オープンソースソフトウェアであるOpenDroneMapのプログラムコードを改良して用いた。また、外部企業にデータ解析を委託して、結果のクロスチェックを行った。
タンパク質含有率に関しては、MICRO CORDER JM11(J-Science Lab.,Ltd)を用いて燃焼法により玄米中の窒素含有率(重量百分率)を測定し、コメの窒素–タンパク質換算係数5.95を乗じることでタンパク質含有率を算出した。
図1に、新旧2機種のカメラで、ほぼ同時期に画像撮影を行い、植生指標マップを求めた結果を示す。プログラムコードを改良した結果、どちらのカメラを用いても、ほぼ同じ絶対値の植生指標が得られる事が実証できた。
図2に、タンパク質含有率と植生指標の相関図を示す。すべての品種での値をプロットすると、ある一定の相関関係が見られることが分かった。ただし、それぞれの品種ごとに見ると、相関関係は明確ではない。これについては、年度を重ねて観測を続け、データを蓄積する必要があると考える。
上:Parrot社セコイアカメラ、下:DJI社P4Mカメラ
共に、左は出穂期(2021年9月前半)、右は収穫期(2021年10月前半)
左は出穂期(2021年9月前半)、右は収穫期(2021年10月前半)
「山」は山田錦、「ヤ」は山田錦(契約農家)、「雄」は雄町、「楽」は楽風舞
評価
水稲の植生指標と玄米のタンパク質含有率に一定の相関関係が見られた。ドローン撮影画像から酒米の品質を評価できる可能性がある。
現時点ではその相関関係は不明確なため、今後も継続して観測、データを蓄積し、相関関係の精度を高める必要がある。
令和2年度
1.県内農産物の美容機能性評価手法の構築と高機能化粧品への利用
目的
近代化学㈱は地産地消をテーマに神奈川県産農産物の成分を配合した化粧品ブランド「EVERY NATURE DAYS」を設立し、海老名市産のイチゴの果汁や座間市産のひまわりの種子油を配合したヘアケア化粧品を発売している。使用感評価では高評価を得ているが、今後その化粧品の機能性をアピールして とがったプロモーションを展開するために科学的根拠(エビデンス)を取得したい。そこで早稲田大学 原太一教授の「細胞の内在的浄化機構賦活化を評価する」手法を用いて美容エビデンスを取得できる可能性を検証したい。
可能性評価の具体的な実施内容と結果
早稲田大学において各抽出液の機能性評価を行ったところ、オートファジーを誘導する活性が見出だされた。オートファジーは肌の再生や育毛に寄与することが明らかになっているシステムであり、オートファジーを誘導する抽出画分には皮膚細胞のバリア機能を高める効果や育毛補助効果が確認されている。また、オートファジー誘導活性とは別に、育毛補助効果のみを示す抽出画分も見出した。
評価
海老名市産イチゴの果汁の美容エビデンスを取得することができた。今後は この果汁を配合したヘアケア化粧品を特色あるブランドとして差別化することに活用する。また有効成分を特定し、より高機能な化粧品の製品開発に展開したい。
内在的浄化機構賦活化の評価手法を他の農林水産物にも適用し、新たな機能性素材を見出していきたい。
2.高齢者の運動機能を高めるVRの可能性の検討
目的
急速な高齢化の進展等を背景に、支援する側の負担を軽減し、高齢者の身体機能の維持と自立した生活を維持できるよう福祉用具開発への期待が高まっている。デイサービス(通所介護)では、理学療法士による運動機能維持を目的としたプログラムがあるが、1人に対して十分なケアができないのが現状である。また、施設が広くないために、効果的な運動をするのが難しい。そこで、安全かつ、省スペースで運動効果を期待できるVR技術(装置・コンテンツ)用いて高齢者の運動サポートの有用性と使い手の視点を探るためユーザビリティを調査し、課題抽出、ビジネスモデルの新たな可能性を検討する。
可能性評価の具体的な実施内容と結果
今後のビジネスモデルを見据え、ターゲットユーザーとなる高齢者を対象にユーザビリティ調査を行うにあたり、VRコンテンツ事業者、デイサービス事業者、理学療法士、KISTECの体制で共創し、以下の検討、ユーザビリティ調査を行った。
・VR装置の検討(高齢者が受け入れやすいVR装置であること)
・検証用コンテンツ検討(安全性や介護度に配慮した運動を促がすコンテンツ内容)
・利用環境、ターゲットユーザー高齢者の介護度の対象検討
・ユーザビリティ達成基準、アンケートの策定、調査方法の検討
ユーザビリティ調査は、既存VR製品2種類と検証用VRコンテンツを用いて、ターゲットユーザーの高齢者と健常者を被験者に実際に行っている行動をヒアリングとチェックリストに沿って比較観察した。新型コロナウイルス感染防止の観点から、遠隔による調査方法の検討をし、現地(デイサービス)での人数を極力少ない形で調査を実施した。
その結果、視界を覆うVR装置に概ね抵抗もなく、VRコンテンツによる運動効果の可能性も見られた。今後のビジネスモデルの基盤となる情報を得ることができた。
評価
ユーザビリティ調査によって、高齢者とVR技術(装置・コンテンツ)との関係性と課題が明らかになった。更にVRコンテンツを改良していくことで高齢者への運動効果が期待される。
令和元年度(平成31年度)
1.レーザーリフトオフによる高分子材料の剥離可能性評価
目的
素子の小型化やフレキシブル化の為にはガラス基板や結晶基板から素子を剥離させる技術として、レーザーリフトオフ(LLO)が注目されている。基板上に塗られた高分子材料接着剤をレーザーにより変質させ素子を剥離する方法である。主に赤外線が用いられる手法であるが、省エネルギー化の可能性について検討するため、紫外線照射による剥離評価を行った。
可能性評価の具体的な実施内容と結果
従来の赤外線を用いる場合は、赤外線を吸収するために接着層は剥離層と接着層の2層構造になっている。この工程の省エネルギー化のため紫外線によるレーザーリフトオフによる剥離を検討した。そのプロセスとして剥離層を省いた接着層のみの1層構造への紫外線照射を検討した。照射条件として、レーザーパワー、スキャン速度、ピッチ、ビーム半径などの最適化を行ったところ、ビーム径120~130μm、エネルギー密度300mJ/cm2以上の条件では、紫外線レーザー照射により、ガラスと基板との剥離が確認できた。従来の赤外線に代わり紫外線による効率的なレーザーリフトオフ装置開発のための基礎データが取得
評価
フレキシブル基板の剥離において、紫外線レーザーの照射条件の最適化により、接着層がアブレーションされ剥離が可能となることが本評価により明らかになった。更に接着層の選択によりプロセスの高速化が期待される。
2.微細加工ミスト抑制法の検討
目的
めっき作業ではめっき工程において発生するミストにより,作業員が肌の炎症などを生じる危険性があり,特にクロム酸ミストでは鼻中隔穿孔など鼻や上部気道障害を引き起こす問題がある。対策として,ミスト発生抑制剤をめっき浴に添加しているが,大きい浴槽では添加量が多くなること,浴内での抑制剤の消耗による添加によって使用量が多くなる問題がある。そこで,発泡性のミスト発生抑制剤を開発し,めっき液面に噴霧することで抑制剤使用量を削減し,効率的なミスト抑制をめざす。
可能性評価の具体的な実施内容と結果
クロムめっき用の浴槽からめっき作業中に発生するミストを捕集し,ミスト中のクロム酸濃度を測定した。ミストの捕集は「作業環境測定ガイドブック」に準じた手法で採取し,ジフェニルカルバジド吸光光度法により六価クロム酸の濃度を測定した。
評価試験は通常のメッキ作業中の場合とミスト発生抑制剤を噴霧した場合とを比較した。めっき作業時にはめっき浴から発生する気泡によりミストが発生している。抑制剤を噴霧した場合には噴霧直後から抑制剤が発泡し,めっき浴表面が発泡した抑制剤に覆われた。この時の大気中のクロム酸濃度は通常作業時に比べて,クロム酸ミストを30%程度低減できることが確認された。一方で噴霧時の空気の流れによってミストの拡散も生じることから,今後は噴霧方向や噴霧時間,排気装置の排気量について検討する必要がある。
評価
発泡性のミスト発生抑制剤を噴霧することで,少量でめっき浴からのミストを抑制できることが確認できた。今後は噴霧時間や排気装置との風量を調整することで効率的にミストの抑制が可能であることが示された。
平成30年度
1.精密農業用ドローンシステムの開発
目的
酒造米に限らず、農業の現場では、担い手となる労働力不足が深刻となっており、IoT 活用等による省力化、重労働軽減を進めることが求められている。一方で、飛行時間が短いものの容易に広範囲の情報を収集できることから、ドローンの活用が多方面で進んできている。そこで、酒造米の生産現場でドローンによる情報収集を実施し、生育管理への活用の可能性について検討を行い、研究開発補助事業へ提案するための基礎資料を得る。
可能性評価の具体的な実施内容と結果
具体的な実施内容は大きく分けて、
○ ドローンを使用した生産現場におけるデータ収集体制の確立
○ データ収集の実施
○ データ解析と生育管理への活用方法の検討
の3つとなる。
本年度は継続的に使用できるドローンを確保し、操縦要員育成の体制を整えた。酒造米の生育状況の把握は、現状は圃場の一部の目視による確認で行っているため、生育ムラが生じる可能性が大きい。今回、マルチスペクトラムカメラ搭載のドローンを用い、泉橋酒造株式会社に隣接の圃場にて可能性評価を行った結果、広範囲の生育状況や健康状況の把握及び収穫時期の予測等の可能性を確認できた。
本可能性評価により、酒造米の生産現場におけるIoT 活用等による省力化・軽労化を進めるための基礎資料を得ることができた。今後は国の研究開発助成事業等への応募を検討する。
データ収集の様子
評価
マルチスペクトルカメラ搭載のドローンにより広範囲の圃場における酒造米生育状況等を把握できる可能性が得られた。実験を継続しデータを蓄積する事により、その可能性を向上できると見込まれる。
2.遠隔操作における遠隔環境の情報提示手法に関する研究
目的
現状では遠隔位置から操作者が建設機械を直接視認して遠隔操作しているが、より安全性・確実性を高めるために、建設機械に取り付けたカメラの映像を用いて遠隔操作を行うニーズが高まっている。しかし、映像のみによる遠隔操作の場合、作業性が損なわれる。そこで、映像を用いた建設機械の遠隔操作の作業性を向上させるシステムを考案・構築したので、性能を評価する。
可能性評価の具体的な実施内容と結果
油圧ショベルにコーワテック(株)の遠隔操作ロボットSAMを用い、図1に示す提案システムを構築した。本システムの最大の特徴は、遠隔位置から油圧ショベルを視認するカメラ(環境カメラ)からの映像を用いないでも遠隔操作が可能な点である。
評価としてアーム先端のブレーカが、ターゲットに対して①効率よく、②精度良く、接触できるかを検討した。評価指標として、①にはタスクにかかった時間を用い、②にはタスクにおいて発生した位置合わせに関する失敗の回数を用いた。また、提案システムを環境カメラからの映像を用いた従来システムと比較した。
その結果、本来、環境カメラを用いないで遠隔操作することは困難であるところ、本提案システムによりこれを可能にできた。その性能を従来システムと比較したところ、①効率の低下を抑制しながらも、②精度を有意に向上させることができた。
改善点として、遠隔操作の作業者に、よりわかりやすいインタフェースが望まれる。
評価
実用性が十分確認できた。製品化にあたっては、ユーザーインタフェースのわかりやすさの向上が望まれる。