産学公連携事業化促進研究の結果概要(終了課題)
- 超長寿命形状記憶合金「ウルトラニチノール」の実用化に向けた熱処理工程開発
- ステンレス表面の改質が抗菌作用に与える影響の評価と事業化
- 極短深紫外ファイバーレーザーによる基板のマイクロ加工装置の研究開発
- 高速伝送用FPCの製造技術及び電磁ノイズ低減技術の研究開発
- 電解ミスト抑制法の開発
- バインダジェット3Dプリンタを用いたセラミックポーラス体の造形とその焼成
- ダイレクトメタノール燃料電池の実用化に向けた試作研究
- 省力化・自動化システムを備えたペロブスカイト太陽電池製造及び評価装置の開発
- 牛の人工受精受胎率の向上を目指した運動良好精子選別と凍結工程のシステム化開発
- 超高真空製膜装置用脱着式ポータブル走査型電気化学セル顕微鏡の開発
- 次世代電磁環境適合性(EMC)試験に適用可能な光伝送システムの開発
- 微粒子投射処理(WPC処理)を用いた、超硬合金金型の高機能化
- 不均一加熱によりカーボン・カーボン複合材料(C/C)と金属材料のろう付を実現する新規工業炉の開発
- 選択的無電解めっき法による金属パターン形成法の高度化
- 感光性SAMを用いたケージド細胞培養基板の実用化とエレクトロニクス材料への展開
- ラマン分光を用いた食品中の機能性成分の迅速定量装置の開発
- メカニカル速度リミットロック装置の開発
- 光触媒性を有する最先端コート剤の開発
- 歩行支援杖型ロボットの開発
- ワーム型ロボットと地中レーダーなどを統合した点検プラットフォームの創造
超長寿命形状記憶合金「ウルトラニチノール」の実用化に向けた熱処理工程開発
東京工業大学、株式会社古河テクノマテリアル、KISTEC機械・材料技術部
形状記憶合金には超弾性と形状記憶効果がありますが、実用合金はニチノールの超弾性を利用したものが大半であり、形状記憶効果については、疲労特性は優れるものの変形量が小さいR相変態を利用した用途に限られています。これは、形状記憶効果の特徴であるマルテンサイト相変態を利用した場合、繰り返し使用することで機能劣化が起きやすいことに原因があります。東京工業大学が開発した「ウルトラニチノール」は、この機能劣化が起きにくい非常に高い耐久性を持つ合金で、実用化に向けて鍛造割れを防ぐための熱処理工程の開発が求められています。
本研究では、東京工業大学のウルトラニチノールに関する研究シーズとKISTECの熱間加工・材料評価技術、国内形状記憶合金事業トップシェアの(株)古河テクノマテリアルの合金製造技術を活用し事業化に向けた熱処理工程開発を行いました。令和3年度までに、準工業レベルにスケールアップさせたインゴットを作製し、インゴットから試料を切り出して熱処理することで、鍛造割れの原因となり得る析出物や銅の偏析を低減させる為に最適な熱処理条件を明ら
かにしました。最終年度の令和4年度は、熱処理前後の材料について様々な温度・ひずみ速度・雰囲気で圧縮試験を行って熱間鍛造条件の最適化を行い、本研究当初の目標である“総加工率50%でも割れない材料を得るために最適な熱処理工程”を明らかにすることができました。今回の結果を基に、事業化に向けた研究開発資金獲得のために令和5年5月のA-step(育成型)への申請を計画しています。
ステンレス表面の改質が抗菌作用に与える影響の評価と事業化
株式会社サーフテクノロジー、関西大学、KISTEC化学技術部、研究開発部
細菌やウイルス等により引き起こされる感染症のリスクを減少させるために様々な抗菌剤を塗布したり、練りこんだりして抗菌作用を付与させた抗菌加工製品の開発が進められています。また、近年は形状を加工することで抗菌効果が得られることが明らかとなり、形状加工を利用した抗菌加工品の開発が進められています。
最終年度となる本年はステンレス表面にマイクロディンプル処理(MD処理)を行う事で得られる抗菌作用について、科学的な抗菌作用のエビデンスの取得を試みました。中でも、抗菌作用が活性酸素種によって引き起こされると仮定し、活性酸素種による抗菌作用の確認や活性酸素種の量について検討しました。その結果、細菌液と抗菌加工品を接触させた時間に相関しながら、活性酸素種が増加することを見出しました。さらに、活性酸素種を抑制することにり、抗菌効果が減少することが明らかとなりました。このことから、ステンレス表面をMD処理加工した抗菌加工表面に接触した細菌がストレスを受けることで活性酸素種量が増加し、抗菌効果が発揮されることを明らかとしました。
本研究を通じて、ステンレス表面を加工した抗菌加工製品化が進み、展示会への出展や販売を開始しており、多くの引き合いがきており、感染症リスクを減少することが出来る有用な製品の開発を進めました。
極短深紫外ファイバーレーザーによる基板のマイクロ加工装置の研究開発
株式会社クォークテクノロジー、株式会社ファシリティ、KISTEC電子技術部
近年、半導体などの実装技術を進化させることにより、複数の半導体チップを3次元的に積層する3D実装や、高密度基板(インターポーザ)上に半導体チップを水平に複数並べる2.5D実装など、半導体回路を微細化せずに高密度化、高性能化、低コスト化を達成する現実的な方法として、今後主流となることが予想されています。
本研究では、株式会社クォークテクノロジーが開発する紫外線レーザーシステムの研究シーズと、株式会社ファシリティの微細搬送技術を用い、KISTECの表面分析技術を活用して、半導体製造等に用いる極薄インターポーザのマイクロホール加工装置の事業化に取り組んでいます。極短パルス紫外レーザ(<50ps、355nm)の試作を行い、インターポーザ材料として無アルカリガラスを用いて穴あけ加工を行いました。その後、KISTECでの表面分析により加工精度やデブリなどダメージデータを収集しました。従来の紫外レーザーとの比較分析を含めレーザーによる加工の最適化を行い、写真に示すような加工が可能となりました。
本研究開発の成果として、令和4年セミコンジャパンに出展・大手材料メーカへの試験加工・電子デバイス新聞への掲載を行いました。さらに、加工精度の向上と加工速度の高速化の両立可能なレーザー照射の特許を共同出願しました。また、高価な光学素子を使わずに、レーザーダイオードで直接的に光をピッキングさせる新しい手法を提案し、令和3年に論文として発表しています。
高速伝送用FPCの製造技術及び電磁ノイズ低減技術の研究開発
山下マテリアル株式会社、青山学院大学、KISTEC電子技術部
高速伝送大容量化に向けてデータセンターなどの機器間を繋ぐ光トランシーバモジュールにも1配線当たり数G~100Gbit/sの伝送を可能とする高速化が進んでおり、薄く屈曲性を持つフレキブルプリント配線板(FPC)にもそれに対応可能な性能が求められています。
本研究では青山学院大学が持つ3次元電磁界シミュレーション技術とKISTECが持つ高周波測定技術を活用し、山下マテリアル(株)が高速伝送用FPCの製造技術の研究開発に取り組んでいます。令和4年度はこれまで実施してきたグランドスリット付きマイクロストリップライン構造の線路について、多くの高速通信用配線規格で採用されている差動線路とした場合を想定し、シミュレーションを用いて最適化した構造を試作しました。測定結果より良好な特性を得ることができ、高速伝送用規格への対応も可能であることを確認しました。今後、この研究を通して得られた技術は他の用途への応用も可能であるため、更なる事業の拡大に取り組んでまいります。
電解ミスト抑制法の開発
合同会社アイル・MTT、旭産業株式会社、KISTEC化学技術部
クロムめっきの工程では水の電気分解にともなって水素ガスや酸素ガスが発生します。そしてこれらのガスとともにめっき液が飛沫として随伴し、有害な6価クロムを含むミストがめっき槽から飛散します。6価クロムは鼻潰瘍、鼻中隔穿孔、気道障害、皮膚障害等の健康障害を引き起こし、ヒトに対して発がん性もあるため、ミスト飛散防止の対策が必要となります。
本研究で開発したTMミストガードはめっき液よりも比重が小さく、表面張力を低下させる界面活性剤を含む溶液です。これをめっき液に添加してから電解することで、微細気泡が界面に存在する界面活性剤に付着し、飛散を抑制させます。また、TMミストガードはクロムめっきの密着性に影響しないことや、ビッカース硬さ(硬度:HV1000以上)も良好な値が得られるなど、めっきに影響がないことを確認しています。
クロムめっきは作業環境基準から局所排気装置を必要とするため、TMミストガードを使用しても局所排気装置による吸引と循環水による6価クロムの回収に係る費用は発生しますが、ミスト量が低減することで、排ガス処理の薬品費も低減します。この技術について、令和6年度の環境技術実証事業に申請する予定です。
バインダジェット3Dプリンタを用いたセラミックポーラス体の造形とその焼成
株式会社吉岡精工、株式会社ExOne、KISTEC機械・材料技術部
セラミックポーラス体を利用したポーラスチャックは、半導体製造装置分野で多く採用されるようになり、半導体部品の小型化や軽薄化によりセラミックポーラス体に求められる品質も高度化しております。セラミックスの製造は原料粉末の調整、粉末成形、焼結の工程を経るのが一般的です。特にポーラス体を製造するには、気孔を発生させるための造孔材や有機バインダの添加等が必要となり、それぞれの工程で最適な条件を決定する必要があります。
本研究では、ポーラスチャックを設計・製造・販売している(株)吉岡精工が(株)ExOneの有する三次元積層造形技術(バインダジェット3Dプリンタ)を応用してセラミックスの原料粉末をポーラス体に積層造形し、KISTECが有するセラミックスの製造に関する様々な技術や分析・評価技術を活用することで、ポーラスチャックに使用可能なセラミックポーラス体を開発することを目的としています。
バインダジェット3Dプリンタで積層造形したアルミナ粉末成形体の脱脂・焼結を行い、本製造プロセスが有効であることを確認しました。作製したアルミナポーラス体を用いてポーラスチャックの試作を行い吸着力の測定を行ったところ、従来品と同様の吸着力を有していることが分かりました。この試作品を展示会(SEMICON Japan 2021東京ビッグサイトにて2021/12/15-17開催)に出展しました。今回の取組の結果を利用して、様々なタイプのポーラスチャックを試作していく予定です。
ダイレクトメタノール燃料電池の実用化に向けた試作研究
アットドウス株式会社、ヨダカ技研株式会社、KISTEC化学技術部
電気浸透の原理を用いたポンプ(EOポンプ)は、機械的な可動部分がないため脈動がなく、極微小流量から安定した送液が可能という特徴があります。また、密閉構造のため空気の混入や液漏れ、不純物の混入の心配がなく医療機器向けをはじめ様々な分野への応用が期待されています。しかしながら、EOポンプの駆動には数十ボルトの比較的高い電圧が必要になり、ウェアラブル用途や携帯・可搬型用途では、その電源の開発が課題となっていました。
本研究では、アットドウス株式会社が、ヨダカ技研株式会社の持つEOポンプの技術とKISTECの持つマイクロ燃料電池技術を活用して、これまでにない新たなダイレクトメタノール燃料電池の開発を進めてきました。初年度はEOポンプの耐久性改善とマイクロ燃料電池の集積化を行い、2年目は基板上に超小型の燃料電池を直列に複数配置したマイクロ燃料電池を用いて、EOポンプの駆動に初めて成功しました。最終年度となる今年度は本格生産に向けてマイクロ燃料電池の作製工程の見直しを図りました。その結果、不良率の大幅な改善とともに電池性能も向上し、1チップでのEOポンプ駆動を可能にしました。またKISTECが権利化したマイクロ燃料電池の特許2件についてアットドウス株式会社への権利移転を行うとともにマイクロ燃料電池の作製技術の移転も完了しました。これによりアットドウス社内での開発体制を構築するなど、事業化に向けて大きく進展しています。
省力化・自動化システムを備えたペロブスカイト太陽電池製造及び評価装置の開発
桐蔭横浜大学、ペクセル・テクノロジーズ株式会社、アステラテック株式会社、KISTEC川崎技術支援部
近年、発電性能が高く、薄膜化、フレキシブル化が期待できるペロブスカイト太陽電池(PSC)が注目されています。PSC作製は真空プロセスが不要で、溶液塗布による工程で作製可能であるため多くの企業が参入を検討していますが、現時点では手作業による作製に頼っているため再現性と歩留まりが低く、研究の足枷になっている状態です。
本研究では、最適作製条件を組み込んだPSC自動製造装置を開発することを目的としています。作製の自動化が実現できれば、経験値に関係なく安定した成膜が可能となり、研究を大幅に加速させることができます。三年目となる本年度は、事業化に向けて見込ユーザーの試用とそのフィードバックにより改良を進めており、そのなかで、スピンコーターを設置するドライボックスの再設計と塗布パラメータの調整により、高効率太陽電池を安定的に作製できることを実証しました。また、研究現場より求められる連続作製においても、溶媒蒸気からの作業者の保護と負担の軽減により、作業効率が大幅に向上することを確認しました。これらの成果を投入して、事業化に向けた最終仕様確定など準備を進めています。
牛の人工受精受胎率の向上を目指した運動良好精子選別と凍結工程のシステム化開発
株式会社協同インターナショナル、横浜国立大学、KISTEC電子技術部
海外で和牛肉が人気商品となったことに伴い、和牛肉の生産に不可欠な和牛の子牛の増産が緊急の課題となっています。しかしながら、繁殖農家の減少や和牛の受胎率の低下などにより、和牛の子牛の増産は難しい状態となっています。
本研究では、横浜国立大学が保有するマイクロ流体に関する解析・評価技術とKISTECが保有する微細加工技術を活用して、(株)協同インターナショナルが和牛の子牛の増産技術に関するシステム化に取り組んでいます。最終年度の令和2年度は牛の運動良好精子選別用デバイスの試作と評価を行なった結果、牛の運動良好精子を効率的に集められるデバイスの形状を発見し、特許出願しました。また、牛精子に対して無害な樹脂の親水化処理方法を見出しました。
これらの成果をもとに,牛の人工受精受胎率の向上を目指した運動良好精子の選別を実用化する研究開発資金を得るために,令和2年12月に日本中央競馬会が公募する「令和3年度 日本中央競馬会畜産振興事業 公募」に申請を行いました。また,牛の運動良好精子選別用デバイスを組み込んだシステム化も視野に入れて,令和3年2月に生物系特定産業技術研究支援センターが公募する令和3年度イノベーション創出強化研究推進事業に申請を行いました。
超高真空製膜装置用脱着式ポータブル走査型電気化学セル顕微鏡の開発
神奈川大学、バキュームプロダクツ株式会社、金沢大学、KISTEC川崎技術支援部
Liイオン電池材料やペロブスカイト材料は大気中では急激に劣化する為、作製直後に真空もしくは不活性ガス中での評価が必要となります。本研究では、ナノ領域における電流・電位計測、局所的な充放電マッピング等の評価が可能な走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)とコンビナトリアル試料作製技術を組み合わせることで、試料作製から評価まで一貫して高速で処理できる装置の開発を目的としています。初年度は真空チャンバーに組み込んだSECCMの開発、2年目はSECCMに用いる真空用ステージの設計・製作を行うとともにレーザー堆積装置との接合・受け渡し動作試験を実施しました。
最終年度である今年度は動作試験の結果を基に装置改良を進め、製品化を目指してきました。加えて、SECCMで計測したサンプルを真空保持のまま装置外に取り出して移送できる真空移送カプセルも開発・作製し、他の計測場所まで真空を保ったまま試料劣化を抑制して輸送することが可能になりました。
最終的な装置の形態としては、今回試作したプロトタイプを基に、ユーザーの試料受け渡し形状に合わせてトランスファー部分をオーダーメイドして販売するというセミオーダー方式になる予定です。
次世代電磁環境適合性(EMC)試験に適用可能な光伝送システムの開発
株式会社多摩川電子、青山学院大学、KISTEC電子技術部
IoT(モノのインターネット)、ロボット、AI等の技術革新に伴い電子化が急速に進み、第四次産業革命とも言われる状況にあります。これら電気製品の商品化にあたっては、電気的な安全性試験(EMC試験など)がメーカーに課されますが、近年の技術革新によりEMC試験のニーズは多様化しています。
本研究では、青山学院大学が有する電磁波評価に関する研究シーズとKISTECのEMC試験技術を活用して、新しいEMC試験に対応可能な光ファイバを用いた光伝送システムの事業化に(株)多摩川電子が取り組んでいます。この光伝送システムは、光ファイバで高周波信号を伝送する光ファイバ無線(RoF)技術と駆動電力を光ファイバで伝送する光給電技術を同時に用い、従来の同軸ケーブルを用いた伝送システムと比較して、電気絶縁性と長距離伝送能力が非常に優れた、外来ノイズに強い計測システムを構築することが可能となります。初年度は、電波吸収体・電磁波シールド材などの測定システムを構築し、光伝送システムの有効性を確認できました。2年目は、受信感度とシールド性能を向上させた光給電RoFレシーバヘッドの製品化を行い、共同で記者発表を行いました。最終年度である令和元年度は、実環境を模擬した評価により、同軸ケーブルに対する優位性を検証し、展示会出展、学会発表、検証機貸出など積極的に普及活動を行い、販売に至りました。
外来ノイズ環境下におけるスイッチング電源のノイズ強度分布測定
微粒子投射処理(WPC処理)を用いた、超硬合金金型の高機能化
株式会社不二WPC、国産合金株式会社、KISTEC機械・材料技術部
寸法精度が要求される精密金型には、変形しにくく耐摩耗性が高い超硬合金が用いられていますが、靭性が低く割れやすい素材でもあります。
本研究では、超微粒子投射処理(WPC処理)による表面改質について先進的な技術を有する(株)不二WPCの技術シーズとKISTECの焼結技術及び分析・評価技術を活用して、国産合金(株)の超硬合金金型を高機能化する技術開発を行いました。その結果、初年度及び2年目でWPC処理による超硬合金の機械的性質向上を実現し、最終年度である令和元年度は超硬合金の表面の高機能化と、超硬合金に代わる材料として緻密で機械的性質の優れたホウ化物硬質材料の開発を実現できました。
不均一加熱によりカーボン・カーボン複合材料(C/C)と金属材料のろう付を実現する新規工業炉の開発
東海大学、関東冶金工業株式会社、KISTEC情報・生産技術部
航空宇宙関連分野等に利用されている炭素繊維強化炭素複合材料(C/C材料)は、良好な耐熱性、熱伝導性と高い比強度、弾性をあわせ持つ優秀な材料です。この先端材料の用途を拡大するために、金属材料との信頼性の高い接合技術が求められています。
本研究では、KISTECのレーザー加工機を用いて金属材料上にろう材を堆積し、東海大学が考案したろう付技術を活用して、関東冶金工業(株)で専用工業炉の検証実験を実施しています。2年目までで関東冶金工業(株)の実験炉を用いたSUS304とC/C材料の接合が可能であることを明らかにし、最終年度の令和元年度はその接合条件の適正化によりC/C材料の健全な接合が可能であることを明らかにしました。今後、新型工業炉の開発に関する技術課題解決を目的として、2020年5月のA-STEP産学共同本格型への申請を計画しています。
選択的無電解めっき法による金属パターン形成法の高度化
関東学院大学、株式会社アズマ、KISTEC電子技術部
Society5.0では、身近なあらゆるものがインターネットにつながり、無線を介して莫大なデータがやり取りされます。情報通信を支える電子部品であるプリント基板分野では、高周波信号に対応できる液晶ポリマー(LCP)などに対するパターン形成技術が求められています。
本研究では、関東学院大学が有する環境にやさしいCuめっき技術とKISTECの表面分析技術を活用して、LCPに直接金属パターンを形成する技術の開発に(株)アズマと取り組み、1時間当たり3μmという高速めっきを可能にしました。最終年度である令和元年度は、これらの成果が認められ、文部科学省所管のJSTが公募した2019年度A-STEP機能検証フェーズ試験研究タイプに採択されました。今後は、プリント配線板製造の方法の確立を目指し、更に研究開発を進める予定です。
感光性SAMを用いたケージド細胞培養基板の実用化とエレクトロニクス材料への展開
神奈川大学、ワオデザイン株式会社、国立研究開発法人物質・材料研究機構、株式会社ウォーターケム、KISTEC化学技術部
平成26年9月に世界で初めてiPS細胞を用いた移植手術が行われる等、再生医療に関する研究は着実に成果を上げています。このようなライフサイエンス分野の発展を支える研究ツールとして、生体組織を模倣する細胞パターニング・培養技術が求められています。
本研究では、神奈川大学と(国研)物質・材料研究機構の細胞パターニング・培養に関する研究シーズとKISTECの分析技術を活用して、ニイガタ(株)と(株)ウォーターケムによる事業化に取り組んでいます。最終年度である令和元年度は、感光性SAM中間体の大量合成を可能にする新たな合成ルートを確立、また、感光性SAMを塗布して感光性膜を基板上に形成し、細胞培養基板としての保存安定性、機能評価等を行うとともに、サンプル出荷により実用化に向けた課題などを明らかにしました。
ラマン分光を用いた食品中の機能性成分の迅速定量装置の開発
株式会社分光科学研究所、東京大学、KISTEC化学技術部
近年の健康ブームのもと、未病の予防の観点から特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品に代表される健康食品の市場規模が拡大を続けています。製品としての健康食品の機能性の科学的根拠を示し、品質安定性を保証するために、ビタミン等の機能性成分の迅速定量装置に対する需要が食品製造業界向けに見込めます。
本研究では、(株)分光科学研究所の有するラマン定量分析技術、東京大学の有するガルバノ分光イメージング技術、KISTECの有する各種分光測定のノウハウを組み合わせ、(株)分光科学研究所による機能性成分のラマン迅速定量装置の事業化に取り組んでいます。初年度は、装置のプロトタイプ試作を進め、市販の栄養機能食品中の各種ビタミン類の含有量を精度よく迅速分析可能なことを実証しました。この結果を受け、2年目に生体試料の分子定量装置として受注し、初号機を納入しました。これに加え、試作機にガルバノスキャン機能を追加し、栄養機能食品などの迅速分析に有効なガルバノ広領域高速平均化測定の原理確認を行いました。最終年度となる令和元年度は、2年目の試作機で得られたミリメートル四方の測定領域をセンチメートル四方程度まで拡大することができ、市場からの要望仕様を満たす目処がつきました。これまでの開発結果は、記者発表や展示会出展、学会発表などを通じ、積極的な広報を進めています。
メカニカル速度リミットロック装置の開発
ダブル技研株式会社、東海大学、KISTEC情報・生産技術部
近年、人間共存型ロボットは人の近くで作業を行うため、ロボットのコンピュータやセンサーが故障した場合、人とロボットが衝突してしまう可能性があり、その危険性がロボットの商品化や普及を妨げています。
そこで本研究では、ロボットの暴走事故を防ぐために、東海大学甲斐研究室で開発された、電気を使わない受動的機械要素(歯車やバネやダンパー)のみで構成されるという特徴を持つメカニカル速度リミットロック装置を基に、KISTECとダブル技研(株)が加わり実用化研究を実施しました。初年度は適用範囲の拡大のため小型化や停止時の衝撃吸収機能の付加を実現し、今年度はさらなる応用範囲を広げるための実用化検証として、車椅子に安全ブレーキとして適用したものを製作し、実験結果と共にテクニカルショウヨコハマ2020に出展して広くユーザーニーズを取得しました。
テクニカルショウヨコハマ2020への試作品展示
光触媒性を有する最先端コート剤の開発
株式会社超越化研、東京大学、KISTEC川崎技術支援部
ゾル-ゲル法で透明かつ多孔質のシリカ薄膜を形成できる超越コート剤は、基材に撥水性、撥油性、光透過性、耐候性、耐摩耗性、硬度、抗菌性など様々な機能を付与できます。さらに、光照射下で下地の汚れを浄化し、抗菌性を持つコート液が見つかり、多様な用途が期待されています。
本研究では、KISTECの光触媒評価技術及び東京大学の微細構造解析技術による機能解明の知見を活用して、この超越コート剤の光触媒性能を向上させ、市場品にない撥水性と吸着性を活かした最先端コート剤を開発することを目的としています。令和元年度は、光触媒の原料となる有機チタン量を増やした新しいコート剤を試作し、性能評価を行ったところ、メチレンブルーの湿式分解性能を有することが明らかとなりました。しかし、ガス分解性能および湿式でのフェノール完全分解においては効果が確認できず、さらなる性能の向上および機能解明が必要となります。
歩行支援杖型ロボットの開発
株式会社タクマ精工、横浜国立大学、KISTEC電子技術部
神奈川県では、「さがみロボット産業特区」において、生活支援ロボットの実用化と普及に重点的に取り組んでいます。
本研究では、高齢者の自立した生活を支援することを目的として、横浜国立大学が有するロボット技術に関する研究シーズとKISTECの安全性評価技術を活用し、使用者の動きに合わせて移動し体重を支える「歩行支援杖型ロボット」の事業化に(株)タクマ精工が取り組んでいます。初年度は、実証試験に備えた試作機の製作と安全性の評価を実施しました。2年目は、試作機の評価を行い、使用者の上体に加速度センサを取り付け、上体の加速度を計測しました。その結果、杖型ロボットを利用することで上体の揺動が低減できることを確認しました。
ワーム型ロボットと地中レーダーなどを統合した点検プラットフォームの創造
株式会社タウ技研、東京工科大学、KISTEC電子技術部
近年、人の立入が制限される災害現場や立入が困難なインフラ点検現場へのロボット技術の適用が進んでいます。それらの代表的な機器としてドローンが挙げられますが、ドローンによる画像探査等では不十分なケースも出ています。
本研究では、より近接した点検を実施するため、東京工科大学の外部推進式ワームロボット技術と(株)タウ技研のレーダー等によるセンシング技術を統合した研究を実施し、KISTECによる支援を受けながら、(株)タウ技研による事業化が進められています。初年度は、センサヘッド部の開発とワームロボットの小型化に取り組み、試作機を完成させました。2年目は、各関節の統合駆動ソフトのブラッシュアップ、レーダーセンシングに対応できるトリガシステムの構築により、レーダーによる試験探査チャート出力を実現しました。